長男は今も昔も歌が好きだ。
お気に入りの歌は、同じものを一日中何度も何度も何度も歌う。
そんな長男が3歳頃のことである。
彼の当時のお気に入りレパートリー曲のひとつが、ジブリ映画「となりのトトロ」のオープニングで流れる「さんぽ」という曲であった。
女の子がさんぽする様がかわいらしく歌われる、私も大好きな曲である。
長男は何度も何度も歌っていた。もはや日常音の一部となり、聞くともなしに共に過ごしていた私。しかしある時から、長男がこの歌を歌うたびに、何か違和感を感じるようになった。
私はしっかりと長男の歌を聞いた。そして違和感の正体を見つけた!
「わたし」の部分を「わたくし」と歌っている!
なんだか字余り!そして上品!
一人称がわたくしと使うのは一体どんな女性なのか。奥様か?貴族か?姫か?
そんな上品な女性が、1人でズンズン歩くには何か訳があるはずだ。
私の妄想は広がり、
小さな女の子のさんぽしている姿は、
命を狙う継母から逃げる白雪姫へと変化する。
気丈に林の奥へ奥へと歩いていく幸薄の姫。
普段の生活ではありえない距離の移動も、
「歩くの大好きだから、わたくしは元気よ」と、朗らかで前向きな姫。
自分の現状を理解し、今は進むのが一番と考え行動する勇敢な姫。
彼女のキレイな心根に惹かれ、いつしかキツネもタヌキも友となるのだ。
長男がこの歌を「わたくし」で歌う度に、私は心の中で、健気で頑張り屋な姫へ向けてエールを送っていた。