「全ての生物のからだは細胞が集まって構成されている説」を細胞説と言います。約200年前にシュライデンとシュワンによって提唱されました。細胞説がみつかるまでのエピソードがちょっと素敵だったのでご紹介します。
似ている名前の見分け方
シュライデンが植物細胞の細胞説を提唱し、シュワンが動物細胞の細胞説を提唱しました。
さて、シュライデンとシュワンは、どちらも「シュシュ」していて混乱してしまいますよね。
そんな時は、シュワンは「ワン」とついているので、イヌつまり動物の方であると区別する方法はいかがでしょうか。残ったシュライデンが植物の方というわけです。
まずは植物から分かった。
ドイツのベルリン大学で植物の発生を研究していたマイティアス・ヤーコプ・シュライデンは、「植物の基本単位が細胞である」と発表しました。1838年、彼が34才の時でした。
発表された論文のメインテーマは植物の発生についてで、細胞説の記述はおまけの部分だったようです。メインで彼が主張していた植物の発生は、核が細胞に成長するという間違った説でした。間違った部分はありましたが、生物の根幹となる細胞説の基礎を築いたことに間違いはありません。
大学の同級生と、食堂で食事しながら話すのは楽しいよね
シュライデンが植物の細胞説を発表した年、1838年の10月のことです。シュライデンは同級生のシュワンと、食堂で会話をしながら食事をしていました。
シュワンは解剖学者として、動物の神経細胞を研究しています。
シュライデンが言います「植物細胞では核がすごく大事なことに気が付いたんだ。」
ほぼ全ての植物細胞の中に、黒ずんだ小さいもの(核)があることは、1831年にロバート・ブラウンが見つけています。この発見をうけて、シュライデンの研究は行われていたのです。
シュライデンとの会話の中で、シュワンは研究している動物細胞でも、黒ずんだ小さいものをよく見ることに気が付きました。
「私は動物細胞でもそのようなものを見たよ!君の見ている核と、私の見ているものが、同じものか確認してくれないかい!?動物細胞にも核があるのかもしれない!」
二人ともこんな口調だったかわかりません。口調は雰囲気でお伝えしていますw
ともあれ、興奮した2人はその日のうちに、シュワンの研究室に行き、動物細胞の細胞を2人で観察しました。顕微鏡を二人で交互にのぞき込んだのかもしれません。仲良しですね。
その結果、シュライデンは動物細胞の核も、植物細胞の核ととても良く似ていることを認めました。
シュワンは「細胞が動物の組織も構成している」と仮設を立て、様々な動物細胞を調べ始めました。
オタマジャクシの背骨の神経を観察し、植物細胞と同じ構造をしていることを確認しました。
脊椎動物の血液を観察し、血液中にも細胞が遊離していることを確認しました。遊離している細胞は、後に赤血球や白血球と判明しています。
ニワトリの卵も巨大な細胞であることを確認しました。
このようにシュワンはいろいろ細胞を観察することで、動物も細胞から成ることを提唱したのです。
ちなみに、シュワンも細胞の発生は間違った説を唱えていました。彼は、「細胞液が集まって細胞は発生する」と考えていたのです。これは、当時の最先端の研究モデルが「結晶化」だったことに感化されたようです。
シュライデンやシュワンが提唱した細胞説は、後にドイツ人のフィルヒョーらによって強固に裏付けされました。その時に細胞の発生方法の考え方も修正されています。フィルヒョーが細胞説を説明した「細胞は細胞からなる」との表現は、実にキャッチーでわかりやすいなぁと尊敬します。
ちなみに、原文はラテン語でomnis cellula e cellula (オムニス ケッルラー エー ケッルラー)です。
シュライデンの生い立ち
マイティアス・ヤーコプ・シュライデンは1804年、今のドイツのハンブルグで生まれました。日本では江戸時代中期の頃です。
父は医師の家庭で育ち、若くして弁護士として独立します。しかし、感情の起伏が激しい激情的な性格だった彼には弁護士の仕事は向いていなかったようです。仕事はうまくいかず、ピストルで自殺を図るまで彼は追い詰められてしまいます。幸いにも一命をとりとめた彼は、大学に入り直し医学を学びはじめます。
そんな中、自分の興味は植物学であると、29歳の時に別の大学に入り直し植物学を極めていくのでした。この最後に入った大学こそが、のちにシュワンと出会うベルリン大学だったのです。
シュライデンは3つの大学で、法律も医学も植物学も学んだ人物ということですね。優秀な人物像が伝わってきます。同時に彼の生き様は、うまくいかなかったら、やり直したって良いのだと、私たちを勇気づけてくれますね。
シュワンの功績
テオドール・シュワンはドイツのノイスで生まれました。非常に温厚な性格で彼を支持する人が多くいたそうです。激情的なシュライデンと温厚なシュワンとの相性は悪くなかったのでしょうね。
さて、シュワンの功績は動物での細胞説の他にもたくさんあります。
・ペプシンの発見者:ブタの胃から、消化酵素であるペプシンをみつけました。
・代謝の概念を考えた人:カラダの中で起こる化学反応ぜんたいのことを代謝といいます。「代謝がよくなりたい。」や「代謝が悪いの。」など私たちも日常で使っていますよね。この概念を最初に考えたのはシュワンとされています。
・神経鞘(しんけいしょう)の発見者:神経はニューロンと呼ばれる細胞です。ニューロンは一部に長い突起(軸索)を持ち、軸索を介してニューロン同士で情報を伝達しています。この軸索は長すぎて栄養が届きません。軸索に栄養を届ける役割をしているのが神経鞘なのです。神経鞘は軸索の周りをとりまいています。神経鞘の細胞は、発見者にちなんでシュワン細胞とばれています。