日常を科学したい

理系ママが、日常生活のなかの理科雑学について、ちょっと詳しく書いています。

お風呂で指先がシワシワのしくみ【細胞膜・皮膚】


お風呂に長時間入り、手足の指先がしわしわになった経験をもつヒトは多いと思います。

なぜしわしわになるでしょうか?それは、お風呂のお湯皮膚がふやけてしまうためです。ふやけるとは、皮膚の外側の細胞に水が入り込み、ふくらんだ状態のことです。

ここでは、お風呂で指先がしわしわになるわけを、動物細胞の細胞膜の性質を使って説明していきます。また、皮膚のつくりと働きについても触れていきます。

 

 

イチゴ牛乳風呂に入ったらイチゴ色の肌になる?

お風呂に長時間入ると、お湯が皮膚に入り込み、指先がしわしわになります。

では、イチゴ牛乳風呂に入ったらイチゴ色の肌になるのでしょうか?

ズバリなりません。色付きの入浴剤のお風呂に入っても、入浴剤色の皮膚に染まって出てきたことはないですよね。もしも皮膚が染まった様に見えても、水で流せば落ちると思います。皮膚の中まで浸透していることはないはずです。

イチゴ牛乳風呂に入っても、色の成分は皮膚の細胞の中には入り込んでいきません。皮膚の細胞の中に入れるのは、水分だけなのです。

 

なぜ水だけが入ることができるの?

水だけが細胞に入れるヒミツは、細胞の構造にあります。

ヒトは細胞でできています。細胞が数兆個集まってできています。ヒトの外側は皮膚で覆われていますよね。その皮膚もたくさんの細胞が集まって構成されているのです。

全ての細胞は細胞膜で囲まれています。細胞の中に入るためにはかならず細胞膜を通過しなくてはいけないというわけです。この細胞膜の性質が、水が外界と細胞の中を行き来できるヒミツなのです。

 

細胞膜は半透性!

細胞膜は半透性という性質をもっています。

半透性とは、水は出入りできるけれど、物質は出入りできない性質のことです。

ちなみに、水も物質も出入りできる性質は全透性といい、植物細胞の細胞壁は全透性です。

水分が通り抜けられる細胞膜なので、周りに水がたくさんありば、細胞の中に水が入ってきますし、細胞の周りの水が少なければ外へ出ていきます。

おふろで指先がしわしわになるのも、外で指先がカサカサになる乾燥肌も同じ細胞の半透性という性質で説明できるのです。 

 

なぜ指先だけしわしわになるの?

ここで疑問に思う方もいるのではないでしょうか。

全身が細胞で覆われているならば、お風呂に使っている部分は細胞に水分が入り込むはずだ、と。ならば全身がしわしわになるべきではないか、と。

しかし実際は、指先だけがしわしわになっている様に感じますよね。

なぜ、指先だけがしわしわになるのでしょうか?

お風呂で指先だけがしわしわになる理由は、いくつかあります。

ひとつめは、指先には爪があるためです。

爪は硬化した細胞で、細胞と細胞がしっかりとくっついています。そのため細胞が伸び縮みできません。つまり、爪の部分は膨らないのです。

指の平の部分の細胞は普通に膨らみますから、膨らみが指の平の部分に集中し、他の部分よりも指先だけが大きくしわしわになるというわけです。

ふたつめは、指先の角質層が他の部分と比べて分厚く、水分が入り込みやすいためです。どの位、指先の角質層は分厚いのかというと、角質層の薄い顔と比べると10倍の厚さにもなります。角質層の細胞がたくさんある分、水分が入り込む量も多くなります。その結果、指先はしわしわしたことがわかりやすくなるというわけです。

 

角質層ってなんだろう?

ヒトの表皮は0.2㎜!

皮膚はの厚さは約2ミリ。成人男性の皮膚全体は一枚に広げると畳一畳くらいあります(約1.6㎡)

たった2ミリの厚さの皮膚ですが、全てが今回のお風呂のしわしわに関わっているわけではありません。皮膚の最も外側の部分だけ関わってきます。

皮膚の最も外側の部分を表皮といいます。からだの場所によって異なりますが、顔での表皮の厚さはなんと0.2mm!ヒトはとってもうすい膜で覆われている状態なのですね。

 

角質層は0.02㎜!

表皮をさらに細かく見ていきましょう。

表皮の一番内側には基底層と呼ばれる細胞分裂を行う部分があります。

そこでは皮膚の細胞が作られています。つくられた細胞は外側に向かってどんどん押し上げられていき、一番外側までたどり着くと剥がれ落ちていきます。

この、表皮の一番外側の部分が角質層といわれます。角質層の厚さは、分厚い指先で0.5㎜~1㎜。薄い顔では0.02mmほどです。0.02㎜といったら、サランラップくらいの厚さといったらイメージしやすいでしょうか。

非常に薄い角質層ですが、どのようなはたらきをしているのでしょうか。

 

角質層のはたらきは鎧!

細胞が基底層で作られてから、角質層で剥がれ落ちるまでの一連の流れを、ターンオーバーといいます。

具体的に説明していきましょう。

基底層でつくられたばかりの赤ちゃん細胞はまだ柔らかくフニャフニャです。

皮膚の赤ちゃん細胞は、外側に押し上げられていく中で「ケラチン」とよばれる物質を作っていきます。ケラチンとは繊維状の堅いタンパク質です。

細胞は外へ向かうにつれて、少しずつケラチンを蓄積していきます。堅い鎧を持った戦士へと自らを変えていくのです。

とうとう外界に接するところまで押し上げられた時、細胞の中にはたくさんのケラチンが蓄積されています。屈強な鎧をまとった細胞へと成長したのです。

これら細胞で構成されているのが角質層です。

しかし、そのころには細胞は呼吸を止めています。最果ての外側の細胞にまで酸素や栄養素は届かないためです。栄養源のない細胞は寿命が尽き、核を失った細胞となります。

核を失っても、角質層の細胞の仕事は終わりません。むしろここからが本番です。

角質層の細胞は表皮の外側に留まり続けます。核のない細胞にはもはやケラチンをつくりだすことはできません。しかし、これまで作り続けて蓄積したケラチンをたっぷり含んだ細胞は、個体を守る鎧となるのです。

細胞の堅さは、菌やよごれが体内に付着するのを守ってくれますし、体内から余分な水分が出ていくのを防いでくれます。

それでも菌やよごれが付着してしまった時、その時が彼ら角質層の細胞の最後の仕事となります。付着した菌や汚れを抱き込みながら、一緒に体から剥がれ落ちていくのです。自分を作り出したからだを守るため、自らを犠牲にするのです。

近くに栄養素を運ぶ体液が流れていないので、剥がれ落ちても体内環境への影響はありません。自分が守っていた場所は、新たな角質層となった細胞が守ってくれると信じて。。。これがターンオーバーです。

 

あかちゃんの肌はターンオーバーが活発なため、ふわふわな肌質なのにたいし、大人になるとターンオーバーがおとろえて肌がガサガサになってしまいますよね。困った現象ですが、考えようによっては、根性のある角質層の細胞が剥がれ落ちずに頑張っているといえなくもないわけです。

 

ちなみに、しわしわになった角質層は、水をふくんでやわらかくなっているので、鎧のはたらきが弱まっています。ふやけた手での刃物の取り扱いや、プールサイドを裸足であるく際には、普段以上に怪我に気を付けくださいね。

 

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