新しいウイルスの脅威と向き合う今こそ、教科書レベルの知識をもう一度確認してはいかがでしょうか。
高校生物の教科書レベルで出てくる、ウイルスに関する部分を集めてみました。
今回は、T2ファージウイルスについてです。
★ここでの教科書レベルとは、正統派参考書「チャート式シリーズ 高校生物」にのっているくらいのものをイメージしています。
ちなみにこの参考書、うちではリビングの本棚に置いているのですが、気が付くと小学生の長男がペラペラめくって眺めていたりします。カラー図や写真も多く、内容はわからずとも楽しいらしいですw
【あらかじめ知っているとベンリな知識】
・ウイルスはタンパク質と核酸(DNAやRNA)だけでできている。
・ウイルスは自力で子孫を残せない。他の生きている細胞に寄生し、細胞の中の材料やエネルギーを奪うことで、自分の子孫を作っている。
ウイルスの感染
ウイルスの感染の大まかな流れは、「吸着→侵入→合成→放出」です。
ウイルスによって、吸着の方法も侵入、合成、放出の方法も異なります。まだ解明されていない部分もたくさんあります。
高校生物基礎では、もっともポピュラーなウイルスである「T2ファージ」を取り扱っています。このウイスル、今では常識となった「遺伝情報はDNAに書かれていること」を明らかにした実験で使われたものです。偉大な発見に欠かせなかった実験ウイスルとして知名度がとても高いです。
T2ファージとは
T2ファージとは、大腸菌に感染するウイルスです。
タンパク質と核酸(DNA)だけで構成されています。インフルエンザウイスルやコロナウイルスとはちがい、一番外側に薄い膜(エンベロープ)を持っていません。
T2ファージウイルスの一番の特徴は、独特な形です。
20面体の頭部に6本の脚が生えている不思議な形をしています。頭部の中にはDNAが入っています。宇宙探査船のような形ですよね。これが自然界に存在しているなんてとても不思議です。
頭部の20面体はDNAが入る入れ物です。そこから連なる尾部は筒状になっており、先端のトゲトゲは生体ドリルとよばれ、大腸菌に侵入するためにギュイーンと穴をあける働きをするそうです。ますます機械じみてきましたね。。
頭部も尾部もタンパク質でできています。
大腸菌とは
一つの細胞だけで生きている単細胞生物であり、核を持たない原核生物です。細胞壁と細胞膜で囲まれた中には、細胞質と環状のDNAをもちます。鞭毛で動くこともできます。単純なしくみで身近な生物なので、モデル生物として生物学の発展には欠かせない存在です。
★モデル生物とは??
生物学で、生命現象の解明に使用される生物のことです。
全ての生物は共通の祖先から派生したと考えられています。なので全ての生物は共通な部分を持っています。その共通の部分のはたらきを解明するには、できるだけ共通部分だけをもった生物の方が分かりやすいし扱いやすいですよね。そんな考えのもと、選ばれた生物のことです。
モデル生物の条件は、扱いやすいサイズ・観察しやすいこと・入手維持しやすいこと・世代交代がはやいこと・ゲノム解析が完了していることなどがあります。
大腸菌は、寒天培地で簡単に増やせるし、雌雄がないので増やしたものは全て同じ遺伝子です。場所も取りませんし、たった20分で世代交代が行えます。モデル生物としては最適といえるでしょう。
私的には更に、生物とはいえ菌なので、実験で利用しても倫理的にも心理的にも負担にならないところも大腸菌のよさだと思っています。学生時代に大変おせわになりました。大腸菌ありがとう!
T2ファージの感染方法
T2ファージが大腸菌に感染する流れを、「吸着→侵入→合成→放出」の順を追ってみていくことにします。
①吸着
大腸菌の表面に、T2ファージの足先が吸着します。
大腸菌の直径が約3μmで、T2ファージが0.03μmくらいです。なので、T2ファージは大腸菌の1/100くらいですよね。これ、身長160cmの自分に置き換えると、1.6cmのウイルスが吸着することになります。親指の先くらいの大きさのT2ファージが、ペタペタと自分に吸着する様を想像すると、ゾゾゾと恐怖を感じます。
②侵入
生体ドリルで大腸菌の壁に穴を開け、自分のDNAだけを大腸菌に侵入させます。タンパク質は外側に残したままです。
侵入したT2ファージのDNAのはたらきにより、大腸菌のDNAがバラバラにされます。
③合成
バラバラにした大腸菌のDNAを使って、次世代のT2ファージのDNAを複製します。
同時に、T2ファージのタンパク質部分も、大腸菌内の材料を使って作製されます。
つくられたDNAとタンパク質が組み合わさり、次世代のT2ファージがどんどん合成されていきます。
④放出
大腸菌内が、次世代のT2ファージでパンパンになります。
大腸菌は内側から破裂し、新しいT2ファージが放出されます。
こうしてT2ファージは子孫をふやしていくのです。
T2ファージのような膜のないウイルスに対抗する方法
インフルエンザウイルスやコロナウイルスのような、外側に膜のあるウイルスは、外側の膜を破壊することで感染を防ぐことができます。手洗いやアルコール消毒が有効です。
では、T2ファージのような膜をもたないウイルスはどうすればよいのでしょうか。
ヒトに脅威をもたらす膜のないウイルスとしては、ノロウイスルがあります。
膜のないウイスルに対しては、タンパク質の殻を変性させるしかありません。
加熱やキッチンハイターや次亜塩素酸水が効果的です。
ちょっとしたおすすめ情報
実際のファージの姿を写真で見てみたくないですか?この本の中に、電子顕微鏡で観察した、実際のファージの写真がのっています。サンプル画面で見れるので、ぜひ見てみてください!本当に宇宙船みたいな奇天烈な形をしているのです!不思議な形の物体が、自然界に存在していることへの驚きを共感できたら嬉しいなぁと、ちょっとご紹介させていただきましたw
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