次男が1歳6ヶ月の頃の話である。
当時の次男の好物は人参であった。
煮ても焼いても感じる、人参の独特の甘さがたまらないらしい。
煮物は人参から食べるし、炊き込み御飯も野菜炒めも人参から食べる。
食事の中から人参を見つける検定があったら、3級くらいは軽く認定されるだろう。
そんな次男が、豚汁を作成中の台所にやって来た。
「あー!うー!」
喋れないながらも、猛アピールで指をさす先は、生の人参丸ごと一本。
「おいしくコトコトお料理するねぇ。」
私の言葉は耳に入らず、
「あー!うー!うー!」
大声と共に指差し続ける。
だんだんと面倒臭くなってきた。
私は母親っぽい対応から一転、
大人気なく現実の厳しさ伝えることにした。
欲しいというならば、よろしい。差し上げよう。
私は人参一本を生のまま次男に渡した。
大好きな人参も調理前は
重いし、硬いし、味も違うことを身をもって学ぶがよい。ふはははは。
人参を受け取った次男は、嬉しそうに自分の食事の席に座り、両手で握りしめた大好物をかじり始めた。
予想外だ。
歯もまだ8本しか生えていないのに。
すぐに興味を失い、戻されるとの予想。
反して、嬉々としてかじり続ける現実。
夕飯を作り終えるまで、カリカリという音が止むことはなかった。