干し柿はなぜ甘い?渋抜きのしくみ
渋柿は上手に渋抜きをすることで、甘い美味しい柿になります。
渋柿の渋抜きのしくみを、少しくわしく説明していきます。
渋柿の渋を抜くことを「さわす」といいます。
渋柿の渋を抜くことを「さわす」と言います。渋柿の渋を抜く方法は、干し柿以外にも、いくつも存在しています。
<色々な「さわし方」(渋抜きの方法)>
1「皮をむいて干す(干し柿)」
2「皮をむいて冷凍する」
3「お湯に浸ける」
4「炭酸ガスの中に密閉する」
5「ヘタにお酒を塗って密閉する」
6「完熟するまでまつ」
どの方法でもおいしくて甘い柿になるのですが、その渋抜きのメカニズムは全部同じなのでしょうか?
そもそも干し柿の渋さとは何なのでしょうか?
渋味の原因は「タンニン」
渋柿の渋さの原因は、「タンニン」という成分です。
「タンニン」は単体だと水に溶ける性質を持っています。
また、タンパク質や金属と結合すると不溶化する性質を持っています。
〈タンニンの性質〉
・単体だと水に溶ける(水溶性)
・タンパク質や金属と結合すると水に溶けない(不溶化する)
渋柿を食べた口の中で起きること
タンニンを食べると、なぜ渋味を感じるのでしょうか?
タンニンが水溶性だったり不溶化したりするという性質をふまえながら、渋柿をたべた口の中で起きていることを見ていきましょう。
まず、渋柿中のタンニンが唾液に溶け、口中に広がります。
口内に広がったタンニンは、速やかに唾液内のタンパク質と結合します。その結果、口内表面に不溶化したタンニンが張り付きます。
これが渋さの原因です。
渋柿を食べた時の、口いっぱいに「ぬえっ」とした不快感が広がる感覚は、渋柿を食べたことがある方はイメージしやすいかと思います。(普通、あえて渋柿は食べないかもですが(^◇^;))
渋柿って、「ほんの少し食べただけでも、舌先とかではなく口中に渋味が広がってしまうなぁ。なんでだろう。」と思っていたのですが、溶けて広がって張り付くからなのですね。仕組みを知って納得です。
〈渋柿を食べた口内でおきていること〉
渋柿を食べる
咀嚼されて渋柿の細胞がすりつぶされ、タンニンがでてくる
口内の唾液中の水分にタンニンが溶けて口中に満遍なく広がる
アミラーゼなどの口内のタンパク質とタンニンが結合し口の中に張り付く
口中がずっと渋味でいっぱいになる
渋抜きとは、水溶性の「タンニン」を不溶化することでした。
渋い「タンニン」が唾液に溶けないようできれば、口内に張り付かずにお腹に入っていってくれるので、食べても渋さは感じなくなります。
なお、「タンニン」は、ポリフェノールの一種で、血液をサラサラにしてくれるはたらきがあると言われています。チョコレートや赤ワインにも入っていることでも有名ですよね。
なので、お腹の中に入っても全く問題ありません。ご安心をー。
食べた時に渋さが感じなくなると、もともと柿がもっていた甘味を感じられるようになるため、渋抜きした柿は甘い味に変わるというわけです。
渋抜きとは、渋さを取り除いたりしているのではなく、渋さをはたらかないようにさせているのですね。
渋い「タンニン」は、「アセトアルデヒド」と仲良くなると、渋さが抜けます。
では、どうやって「タンニン」を不溶化するのかというと、
タンニンを不溶化させてくれるのは、「アセトアルデヒド」という成分です。
生物が作り出すことができる、「アセトアルデヒド」という成分が「タンニン」と結合することで、「タンニンを不溶化」させてくれます。
「独りぼっちのタンニン」は、渋さをもっていますが、「アセトアルデヒドと仲良しのタンニン」は渋みが無くなるというわけです。
たしかに、いぶし銀の渋いヒトも、集団でワイワイ集まっていたら渋い雰囲気はなくなりますものね。納得です。
柿にアセトアルデヒドを作ってもらう方法は?
渋抜きをするには、柿に「アセトアルデヒド」を作ってもらえばよいことが分かりました。では、今度は「アセトアルデヒド」のつくられる方法をみていきます。
<アセトアルデヒドのつくられる方法>
・酸素をなくす
・アルコールを入れて分解させる
酸素呼吸を阻害することで、アセトアルデヒドがつくられます。
柿がアセトアルデヒドをつくる方法の一つ目が、「柿の酸素呼吸を阻害すること」です。
冒頭でご紹介した渋抜き方法の
1「皮をむいて干す(干し柿)」・ 2「皮をむいて冷凍する」・ 3「お湯に浸ける」・ 4「炭酸ガスの中に密閉する」は全て、
柿の酸素呼吸を阻害することで、積極的にアセトアルデヒドをつくってもらう方法です。
3「お湯に浸ける」・ 4「炭酸ガスの中に密閉する」は、柿の周りから酸素をとりのぞいているのでイメージがつきやすいと思います。
一方で、1「皮をむいて干す(干し柿)」・ 2「皮をむいて冷凍する」は、どうして柿の酸素呼吸を阻害できるのでしょうか。
それは、柿の皮をむいているからです。皮をむいた柿の表面が乾燥することで被膜が作られ、柿が酸素を取り込めなくなるのです。
【少し詳しい話】細胞呼吸のしくみから、酸素呼吸を阻害することでアセトアルデヒドが作られるメカニズムを説明します。
果物は生物なので、細胞が集まってできています。
細胞は、酸素と水を使って、ブドウ糖(グルコース)を二酸化炭素と水に分解してエネルギーを取り出しています。これを細胞呼吸といいます。
通常の細胞呼吸は、まずグルコースが分解されてピルビン酸になります。
その後、ピルビン酸も分解されて、最終的に水と二酸化炭素になります。
グルコースがピルビン酸に分解される反応では、酸素は必要ありませんが、その後の分解反応では酸素が必要になります。
細胞が酸素を取り込めない状態では、グルコースがピルビン酸になった後、通常の呼吸としての分解反応は進まず、ピルビン酸はアセトアルデヒドになります。こうしてアセトアルデヒドはつくられているのです。
アルコールを飲ませて、分解することで、アセトアルデヒドがつくられます。
ここまで良い子のように扱っていた「アセトアルデヒド」ですが、じつは厄介者です。
アセトアルデヒドは毒性をもっています。
アセトアルデヒドの持つ厄介さは、大人の方は体験した方も多くいると思います。
お酒を飲んだ時の悪酔いや二日酔いの原因が、アセトアルデヒドです。
ヒトも柿もお酒が体内に入ると、分解してアセトアルデヒドをつくります。
この方法を利用しているのが、
冒頭でご紹介した渋抜き方法 5「ヘタにお酒を塗って密閉する」です。
お酒をヘタから吸収することで、アルコールが分解されてアセトアルデヒドになります。また、密閉することでアルコール成分が充満して酸素濃度も減り、さらにアセトアルデヒドがつくられるというわけです。
完全に熟せば、渋柿も甘くなります。
渋柿も完全に熟せば甘くなるものもあります。(完全に甘くならないものもあるのですが。。。)
冒頭でご紹介した渋抜き方法 6「完熟するまでまつ」がこれにあたります。
渋柿をひたすら柔らかくなるまで放置し、完熟させます。ブルンブルンに柔らかい柿になる必要があるので、スプーンで食べることができます。凍らせてシャーベットのように食べるのも美味しいようです。
そもそも果物が熟して甘くなる理由は、鳥などに食べてもらって種を遠くへ運んでもらうためです。逆に最初から甘い柿は、種が育つまえに自分を甘くしてしまった「うっかり物の品種」といえるのです。甘い柿は渋柿の突然変異種を人工的に育てたものが多いようです。