一般的に、ヒトは6歳ころになると、乳歯から永久歯への生えかわりがはじまる。
先日のことである。わが家の次男も、下の前歯が1本グラグラし始めた。
こどもの歯が抜け、大人の歯にかわる時期がやってきたのだ。
「自分の歯が抜ける」という、生まれて初めての出来事に、次男は怯えまくった。
乳歯が抜ける事を、非常にネガティブに捉えているようだ。
なぜだろう?
私はじっくり次男の気持ちを聞いてみることにした。
次男はポツリと言った。
「ガオガエンには、まだなりたくナイ・・・」
ガオガエンとは、「ポケットモンスター サン&ムーン」シリーズででてくるポケモンである。TVゲームでは、最初に選べるパートナーポケモンであるニャビーが、ニャヒートを経て、ガオガエンへと最終進化する。その姿は、筋肉隆々のプロレスラーのようで、非常にかっこ良いポケモンである。
さて、次男はニャビーが大のお気に入りだった。ニャビーのかわいくてヤンチャな姿に心ひかれたようだ。
その心頭っぷりは、自分とニャビーを同一化するほどだ。次男がニャビー語「ニャビニャビ」でしか話さない期間が発生したこともある。
ニャビーが大好きなのに対して、ガオガエンは次男の琴線にはあまり触れなかった。
今まで「かわいい年下の男子」として、散々可愛がられていた次男は、かわいい事が自分自身の存在意義の拠り所としていた部分が少なからずあったと思われる。
そのため、ニャビーの大人の姿であるガオガエンの、厳ついカッコよさは、彼にとって受け入れられるものではなかったようなのだ。
そんな彼の身におきた「こどもの歯が抜ける」という出来事は、確実に一歩、大人の階段をのぼる、進化の合図だったのだ。それは怯えてもしかたあるまい。
ポケモン進化が始まった様子の自分自身に対して、進化キャンセルのBボタンを押しまくっている様子の次男。
いやいやいや。母は、体も心も、進化はしてもらいたいぞ。
私は次男に伝えてみた。
「いきなりガオガエンにはならないよ!まずはニャヒートになるんだよ!ひたすらかわいいニャビーもよかったけれど、ニャヒートはカッコイイのとカワイイいが両方もっているんだよ。どう?」
次男の瞳がキラリと光った!良いかも!と浮かれ始めた!次男はニャヒートになるのは抵抗なさそうだ!
その後、次男の下の前歯は無事に抜け、頭を出し始めた永久歯を自慢げに毎日みせてくれている。
私も想像してみた。モジャモジャのゴリゴリ筋肉になった次男が、TVの前で今と同じようにゴロゴロしている姿を。たしかに、いきなりガオガエンになられても母も困惑すること間違いなしだ。
15年後の我が家は、そんな次男になっているのだろうか。
大人になる事への変化をも考えさせてくれるポケットモンスターは、実に偉大である。